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開く2025年12月、産経新聞にて報道された「太陽光発電による景観破壊」に関する記事(直近話題になったニュース)は、多くの議論を呼びました。
美しい山並みが削られ、黒いパネルが無機質に並ぶ光景に対し、「自然を守るはずのエコ事業が、逆に自然を壊しているのではないか」という憤りを感じるのは、決して一般の方々だけではありません。私たち太陽光発電業界に身を置く人間にとっても、それは直視しなければならない重い課題です。
しかし、感情的な対立だけでは解決しません。今必要なのは、「なぜこのような乱開発が起きたのか」という過去の経緯と、「これからの太陽光発電はどうあるべきか」という冷静な議論です。
本記事では、一事業者としての自己弁護ではなく、業界の現状と、国が描くエネルギー政策の転換点について、客観的な視点から解説します。
まず、議論の前提として整理しておきたいのが、太陽光発電には大きく分けて2つの種類があり、それぞれ社会的役割も法的規制も全く異なるという事実です。ニュースで批判の対象となっているものと、一般的な住宅設備は、構造的に別の課題を抱えています。
報道で問題視されているケースのほとんどがこちらに該当します。
山林や原野などの土地を造成し、地面に直接架台を設置するタイプです。
規模: 数ヘクタールに及ぶ大規模なものが多い。
主な目的: 売電収益を主とした事業投資。
課題: 森林伐採による保水力の低下、土砂災害リスク、景観との不調和。
これに対し、環境省や各自治体は規制を強化しており、近年では条例によって「抑制区域」を設ける動きが加速しています。林野庁も森林開発許可制度の運用を厳格化しています。
一方で、すでに存在する建物の屋根を活用するのがこのタイプです。
設置場所: 住宅、工場、倉庫、カーポートの屋根。
特徴: 新たに土地開発を伴わないため、自然環境への負荷が極めて低い。
役割: エネルギーの「地産地消(自家消費)」が中心。
今、国が政策として強力に推進しているのは、明らかに後者の「屋根置き」です。ニュースを見て「太陽光=環境破壊」と一括りに捉えてしまうことは、本来普及すべき「屋根利用」の可能性まで否定することになりかねません。
そもそも、なぜ日本の美しい山林が太陽光パネルで埋め尽くされる事態になったのでしょうか。そこには、国の制度設計と市場の原理が深く関わっています。
2012年に開始された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)」は、再エネ普及の起爆剤となりました。
しかし、制度開始当初は「作れば作るほど儲かる」という側面が強く、かつ設置場所に関する規制が緩やかでした。その結果、地価が安く、大規模な設置が可能な「地方の山林」に投資マネーが集中してしまったのです。
経済産業省・資源エネルギー庁もこの問題を重く受け止め、現在ではFIP制度への移行や、廃棄費用の積立義務化など、事業規律の強化を図っています。
参考:資源エネルギー庁|なっとく!再生可能エネルギー FIT・FIP制度
平地が少ない日本において、大規模なメガソーラーを設置できる「適地」はすでに限界を迎えています。無理をして山を削る時代は終わりました。
これからの太陽光発電は、「どこでもいいから設置する」フェーズから、「環境負荷のない適切な場所に設置する」フェーズへと完全にシフトしています。
今後の日本のエネルギー政策がどこへ向かうのかは、政府の資料を読み解けば明白です。
キーワードは「屋根」と「自家消費」です。例としてあげられるのは、北海道安平町が取り組む、地域課題の解決と脱炭素を両立させた先進的なモデルについてです。
北海道安平町は、2025年度から2030年度にかけて、地域分散型エネルギー安定供給システム「あびら再生可能エネルギー地産地消モデル」を推進します。このプロジェクトは、地域エネルギー会社「株式会社あびらエナジー」が主体となり、公共施設や町有地へ太陽光発電と蓄電池をPPA方式(電気の無償設置・購入モデル)で導入するものです。
この取り組みの大きな特徴は、以下の3点に集約されます。
本事業は、総事業費約17.1億円を投じ、期間中に約53,989 t-CO2の削減を見込んでいます。地域のエネルギーを自分たちで作り、守り、産業を支えるこのモデルは、地方創生の新たな指針となるでしょう。
例えるなら: この取り組みは、町全体に「エネルギーの貯蔵庫と自家菜園」を同時に作るようなものです。普段は自分たちの畑(太陽光)で採れた新鮮なエネルギーを使い、万が一の停電(凶作)の際でも、貯蔵庫(マイクログリッドと蓄電池)からエネルギーを供給し続けることで、暮らしの安心と地域の産業を力強く守り抜く仕組みと言えます。
参考:北海道安平町:地域分散型エネルギー安定供給システム『あびら再生可能エネルギー地産地消モデル』
政府は、2030年までに新築住宅や建築物において平均でZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を目指すとしています。
これは、「森を削って電気を作る」のではなく、「生活するその場所で電気を作る」ことへの転換です。
参考:経済産業省 資源エネルギー庁|ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)
参考:環境省|ZEB PORTAL – ネット・ゼロ・エネルギー・ビル
環境省の「地域脱炭素ロードマップ」や令和7年度の重点施策においても、屋根置きなど自家消費型の太陽光発電が最優先されています。
屋根の上であれば、景観を阻害せず、土砂災害のリスクもありません。さらに、送電ロスがなくエネルギー効率も最大化されます。
つまり、「住宅用太陽光」や「屋根置き太陽光」こそが、景観問題に対するひとつの回答であり、国が目指す本来の再生可能エネルギーの姿なのです。
参考:環境省|令和7年度重点施策(地域脱炭素等)
参考:内閣官房|国・地方脱炭素実現会議 地域脱炭素ロードマップ
ニュースによるネガティブなイメージが先行していますが、エネルギー自給率の低い日本において、太陽光発電の必要性自体が消えたわけではありません。
重要なのは「選び方」です。
かつては「売電収入」が目的でしたが、電気代が高騰する現在は「買わないための防衛策」としての価値が高まっています。
自宅の屋根で発電し、自宅で消費する。このサイクルであれば、誰にも迷惑をかけず、経済的にも合理的です。
大規模な集中型電源(メガソーラー含む)は、災害時に送電網が寸断されれば無力化します。
しかし、各家庭に分散して設置された太陽光発電(分散型電源)は、災害時にこそ真価を発揮します。停電時に自宅が「避難所」になる安心感は、景観論争とは別の次元で評価されるべき重要な機能です。
参考:内閣官房国土強靱化推進室|国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)
最後に、少しだけ私たちの話をさせてください。
こうした業界の動向や社会的な批判を受け、私たちエコテックジャパンは一つの明確な方針を持っています。
「私たちは、無理な産業用開発を行わず、住宅用(屋根置き)に特化する」
私たちは、再生可能エネルギーを普及させたいと願っていますが、それが地域住民の平穏や美しい景観を犠牲にして成り立つものであってはならないと考えています。
だからこそ、自然を壊さない「既築住宅の屋根」や「カーポート」への設置にこだわっています。
また、住宅用であっても、お客様の家の屋根の状態を無視した提案は行いません。「その屋根には設置しないほうがいい」という判断も含めて、プロフェッショナルとしての責任を果たしていきます。太陽光発電は本来、誰も不幸にしない技術であるはずです。
ニュースを見て不安に思われた方も、ぜひ「屋根の上で作る小さな発電所」の可能性については、フラットな目線で見ていただければ幸いです。
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